2026年7月16日、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は「国内企業のDX動向・AI活用動向のポイントを公開 広がるAI導入、DXは変われるか」を公表しました。国内企業でAI導入が広がる一方、利用用途や具体的な効果は業務効率化・迅速化が中心となっていることを示しています。
その約1カ月後の8月14日には、Aurora MobileとExabytesが東南アジアでのAI活用に関する3年間の戦略的覚書を発表し、Hmcommも「Voice AI Agent Platform(VAAP)」戦略を公表しました。
対象地域も発表の目的も異なりますが、これらは、AIへどこまでの役割を担わせるのかを考える材料になります。3つの資料を手がかりに、「AIを導入したか」だけでは捉えにくい、利用、業務実行、企業基盤という役割の違いを見ていきます。
国内企業のAI活用は、要約・文書作成など業務効率化が中心
IPAの「DX動向調査」は、国内企業のDXの取り組みや成果、AI・データ活用、人材育成などの状況や課題を把握するために実施されたものです。2026年4月17日~6月12日に、国内企業の経営層、情報システム部門、DX推進部門などを対象に調査し、1799社から回答を得ています。
AI導入による効果については、「期待以上の効果があった」「期待どおりの効果であった」の合計が31.8%、「一定の効果はあった」が50.6%でした。IPAは、多くの企業でAI導入による効果が得られているとまとめています。
ただし、AIが使われている用途には偏りがあります。「文書・音声の要約・翻訳・校正」が82.5%で最も高く、「文書・レポートの作成(社内・社外)」が80.5%、「情報検索・収集・分析・レポーティング」が77.0%と続きました。
一方、「自社製品・サービスの高度化」は10.9%、「生産・物流・サービス提供の計画支援」は6.0%でした。IPAは、事業の高度化や新たな価値創出につながる用途の回答割合は、業務効率化などに比べて低いと整理しています。
具体的な効果を尋ねた設問でも、「業務が効率化したり迅速化した」が91.6%で最も高く、「企画提案等の品質や速さが向上した」が48.9%、「残業時間の削減につながった」が29.2%でした。これに対して、「顧客満足度が向上した」は4.5%、「売上や利益が向上した」は3.9%、「対象となる顧客が拡大した」は2.7%です。
利用用途と具体的効果は別の設問であるため、それぞれの割合を同一母数の数値として単純比較することはできません。ただ、IPA自身がまとめているように、現在のAI利用と具体的な効果は業務効率化・迅速化が中心となっています。
ここで重要なのは、この調査が「なぜ効率化中心になるのか」という原因まで実証したものではない点です。効率化中心という現在地を確認したうえで、AIへさらに別の役割を担わせる場合に何を検討することになるのかを、ほかの発表から見ていきます。
AIが業務を「実行する」には、既存システムとの接続という別の役割がある
2026年8月14日、Aurora MobileとExabytesは、東南アジア全域の企業向けにAIソリューションを共同開発することを目指し、3年間の戦略的覚書を締結したと発表しました。
これは日本企業を対象とした調査ではなく、東南アジア向けの事業発表です。また、発表の中で示された「AI実行ギャップ」や企業の現状に関する説明は、Aurora Mobile側の見解として捉える必要があります。
同社は、多くの企業でAIが中核となるビジネスワークフローから切り離されていると問題提起しています。Aurora Mobile創業者兼CEOのChris Lo氏は、AIが意図を理解できても、タスクを実行するための体系的な接続を欠く状態があると説明しました。
同社のプラットフォームは、顧客の意図に応じたルーティングやERP・CRMシステムとの統合などを行うよう設計されています。
ここで扱われている役割は、IPAの調査で利用割合が高かった要約や文書作成とは異なります。AIが文章や情報を返し、人が次の処理を行う利用だけでなく、AIを既存システムへ接続し、業務フローの中で処理や行動につなげる役割です。
たとえば、AIが問い合わせ内容を理解しても、その後の顧客情報の確認や社内処理を人が別のシステムで行うのであれば、AIが担うのは業務の一部分にとどまります。そこから処理まで任せるには、どのシステムと接続し、どの条件で何を実行させるのかという設計が別に必要になります。
もちろん、システムへ接続すれば必ず売上や利益が高まるという意味ではありません。3資料を横断して考えるうえで重要なのは、「AIを使うこと」と「AIに業務を実行させること」では、必要になる仕組みの範囲が異なるという点です。
AI活用を広げる場合、モデル以外を横断管理する企業基盤も検討対象になる
同じ8月14日、Hmcommは、Voice AI Agent Platform(VAAP)を中核とするAIプラットフォーム企業への事業転換を進めるため、VAAP戦略を策定したと発表しました。
Hmcommは、企業の競争優位が「どのAIモデルを保有するか」から、複数のAIモデルを安全かつ最適に組み合わせ、企業の業務へ実装・継続運用できるかへ移行しているとの見方を示しています。これは同社の市場認識であり、AI市場全体で確定した事実として扱うものではありません。
VAAPは、企業がVoice AI Agentを構築・運用・改善・拡張するための統合プラットフォームとして位置づけられています。Hmcommは、音声認識、音声合成、Voice LLM、RAG、Workflow、Agent、外部システム連携などを単一の共通基盤へ統合するとしています。
また、OpenAI、Anthropic、Google、OSS LLMなどを用途や要件に応じて選択・組み合わせるマルチLLM戦略を採用するとしています。VAAPの主要機能として、Knowledge Management、Workflow Engine、Multi LLM Orchestration、Security、Analytics、Monitoring、API Integrationなども挙げています。
Focus4では、これらを、個々のAIやエージェントを動かすこととは別に、複数のAI活用を横断して管理する「企業基盤」の役割を考える材料として整理できます。
複数の部門や業務へAI活用を広げる場合、どのAIモデルを使うのか、どの知識やワークフローを扱うのか、どのシステムと接続するのか、セキュリティや稼働状況をどう管理するのかといった検討対象も増えます。
なお、Hmcommの発表には、Marketplaceやパートナーエコシステムなど、今後順次拡充するとしている項目もあります。そのため、発表された構想や今後の方針を、すべて現在提供済みの機能として捉えるべきではありません。
この発表から確認できるのは、AIモデルそのものに加え、知識、ワークフロー、外部連携、セキュリティ、監視などを共通基盤で扱うという考え方です。これは、複数のAI活用を企業として継続運用する場合に何が検討対象になるのかを考える材料になります。
AIに何を任せたい? 「利用・業務実行・企業基盤」の3層で考える
ここまでの3資料は、同じ市場や製品を比較したものではありません。IPAは国内企業のAI活用状況を調べた調査、Aurora Mobile/Exabytesは東南アジア向けの提携発表、Hmcommは自社の事業戦略に関する発表です。
したがって、3資料を並べて「第1段階から第3段階へ進むほど高度だ」と評価することはできません。
一方、AIへ何を任せるのかという役割に注目すると、Focus4では企業のAI活用を次の3層に分けて整理できます。
| 層 | AIに任せる役割 | 資料から確認できる例 | 検討対象になり得るもの |
|---|---|---|---|
| 個人・単発業務での利用 | 情報や文章を生成・整理し、人の作業を支援する | 要約、翻訳、校正、文書作成、検索、情報収集 | 業務処理まで任せる場合は、システム接続や実行条件の設計 |
| 業務実行 | 業務フローの中で処理や行動につなげる | ERP・CRM連携、顧客意図に応じたルーティング | 複数の業務へ広げる場合は、AIや連携を横断管理する仕組み |
| 企業基盤 | 複数のAI、知識、ワークフロー、連携、セキュリティ、監視を支える | Knowledge Management、Workflow Engine、Security、Monitoring、API Integrationなど | 目的や業務に合わせた継続的な運用・改善 |
この3層は、必ず下から順番に導入するロードマップではありません。優劣を示す分類でもありません。
たとえば、文章作成や情報整理の効率化だけが目的なら、個人・単発業務でAIを使うだけでも価値があります。大規模なAIプラットフォームが必須という意味ではありません。
反対に、AIの出力をきっかけに、そのまま顧客対応や社内処理まで実行させたい場合は、既存システムとの接続や、AIにどの処理を許可するのかという設計も必要になります。
さらに、複数部門・複数業務へAI活用を広げる場合には、モデル、知識、ワークフロー、接続、セキュリティ、監視などを横断して扱う仕組みも検討対象になります。
つまり、AI活用の次の一手を考えるときの出発点は、「もっと高度なAIを入れるべきか」だけではありません。自社がAIに求めているのは、人の作業を速くすることなのか、業務処理まで実行させることなのか、それとも複数のAI活用を企業として継続運用することなのか。その役割を先に整理することで、目的に対して必要な仕組みの範囲を判断しやすくなります。
出典: 国内企業のDX動向・AI活用動向のポイントを公開 広がるAI導入、DXは変われるか
出典: Aurora MobileとExabytes、東南アジア全域の企業にAI主導のカスタマーエンゲージメントをもたらす3年間の戦略的MoUを締結
出典: AIプラットフォーム企業への事業転換に向けた「Voice AI Agent Platform」戦略の策定について
