2026年7月29日、ICT市場調査コンサルティングの株式会社MM総研は、全国の大学を対象とした調査などを基に、ホワイトペーパー「【提言】淘汰の時代を生き抜く大学が探るAI活用戦略」を発表しました。
MM総研は、2040年に向けた18歳人口の急減や、政府による私立大学の構造転換要請を背景に、大学には「選ばれる大学」への転換が求められていると説明しています。そこで焦点の一つとして挙げたのが、生成AIやデータを単に導入するだけでなく、授業や学習支援などの教学に生かし、教育の質向上につなげるための体制づくりです。
大学の生成AI活用、環境整備の先に残る課題
今回のホワイトペーパーは、複数の調査を根拠にしています。
大学側の状況については、2026年4月30日から5月25日にかけて、全国の大学304校を対象に「大学におけるITインフラの導入状況及び生成AIの導入・推進状況調査」を電話で実施しました。学生側については、2025年11月に全国の大学生・大学院生等2463人を対象として、生成AIの活用状況と利活用意識をインターネットで調査しています。
このほか、2026年4月1日から6月15日には、大学世代、MDASH実施状況、付属・系列校情報などについて、デスクリサーチ・文献調査による「国内大学実態調査」も行っています。
こうした調査を基に、MM総研は、生成AIを利用できる環境の整備は進む一方、運用体制まで伴う「先進・活用層」は26%にとどまるとしています。また、学生のAI利用は78%、ルール整備は59%と示しています。
ただし、プレスリリース本文では、この26%、78%、59%について、それぞれの詳しい設問、分母、定義、集計方法までは示されていません。特に学生のAI利用とルール整備は、同じ対象に同じ条件で尋ねた数値とは確認できないため、単純に差を計算して比較することはできません。
ここまでのMM総研の問題提起を整理すると、生成AIを「利用できる状態」と、その後の「運用体制」や「教学での活用」は分けて考える必要があります。AIを使える状態にすることと、大学の教育活動の中で組織的に使うことの間には、なお整備すべき領域があるという構図です。
なぜ「教学」でのAI活用が次の焦点になるのか
教学とは、授業や学習支援など、学生の教育に直接関わる活動を指します。
MM総研は、特にこの教学現場でAI活用が遅れているとして、「教学AIの空白地帯」が生じる懸念を示しています。これは公的に定義された分類ではなく、今回の分析でMM総研が用いている表現です。
また、学生によるAI利用が広がる一方で、ルール整備など組織側の対応が必要な状況について、MM総研は「シャドーAIが常態化」と表現しています。この表現もMM総研による分析であり、78%と59%という2つの数値だけから、Focus4が独自に「常態化」を証明したものではありません。
こうした問題意識の先に、MM総研が置いているのが「教育の質向上」です。ホワイトペーパーでは、大学が生き残りを図るうえで、データとAIを教育の質向上へ直結させることが重要だとしています。
ただし、今回のプレスリリースには、AIを導入した結果として教育の質が実際に向上したことを示す効果測定は掲載されていません。教育の質向上は、確認済みの成果というより、MM総研が大学のAI・データ活用で目指すべき方向として提示しているものです。
MM総研が求めるのは「ルール」と「使える基盤」の整備
MM総研は、大学教学におけるAI活用を進めるため、2つの提言を示しました。
政府に対しては、「大学教学でのAI活用」を促進し、AI時代の人財育成を支援することを提言しています。一方、大学と民間事業者に対しては、AI活用ガイドラインとAI利用基盤を整備することを求めています。
ここで示されているのは、生成AIツールを導入するだけではなく、「どのように使うのか」を決めるルールと、組織として利用するための基盤の双方が必要だという考え方です。
なお、これらはMM総研から政府、大学、民間事業者への提言です。政府の実施方針や、各大学で導入が決定した施策を示すものではありません。
AI導入を「環境・運用・目的」の3段階で確認する
一次資料の問題提起と提言を、AI導入を考える際の判断軸に置き換えると、「利用環境」「運用ルール・基盤」「本来の目的への活用」という3段階に整理できます。これはMM総研の公式分類ではなく、Focus4による整理です。
利用環境
↓
運用ルール・利用基盤
↓
本来の目的への活用
大学の場合:教学・教育の質向上につながる活用
第1段階の「利用環境」では、必要な人がAIを使える状態になっているかを確認します。ここでは、AIを利用できる環境そのものが整っているかが焦点です。
第2段階の「運用ルール・基盤」では、利用範囲や注意点が整理され、組織として利用できるルールや基盤があるかを確認します。今回、MM総研が大学・民間事業者にガイドラインとAI利用基盤の整備を提言しているのは、この段階に関わります。
第3段階の「本来の目的への活用」では、AIを使うこと自体が目的になっていないかを確認します。大学であれば、授業や学習支援など、教育に直接関わる活動へどう組み込むかが焦点になります。
Focus4の3段階で整理すると、大学のAI活用を「導入したか、していないか」だけで捉えるのではなく、その現在地を段階ごとに確認できます。利用環境を整えた後に、ルールと基盤を整備し、さらに教学という本来の目的へ結び付ける。この順序で確認すれば、次に何を整えるべきかを判断しやすくなります。
この3段階の考え方は、大学以外の組織がAI導入を考える場合にも判断材料になります。ただし、全国304校などを対象とした今回の調査結果が、一般企業にも同じように当てはまることを意味するものではありません。応用できるのは、「使えるか」だけでなく、「運用できるか」「本来の目的に使えているか」まで分けて確認するという考え方です。
