2026年7月16日、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は「国内企業のDX動向・AI活用動向のポイントを公開」を発表しました。国内企業を対象に実施した「DX動向調査」の2025年度調査から、DXの取り組みや成果、AI・データの利活用、人材育成などのポイントをまとめたものです。
AI活用の状況を考えるとき、導入しているかどうかだけでは十分ではありません。実際に何の業務で使われ、どのような効果が確認されているのかまで順に見ることで、企業のAI活用の現在地をより具体的に捉えられます。
DXとAIを調べた2025年度調査、回収は1,799社
IPAは、国内外企業のDXに関する状況や課題などを把握し、公表する目的で「DX動向調査」を実施しています。2025年度調査では、国内企業の経営層、情報システム部門、DX推進部門などを対象に、2026年4月17日から6月12日まで調査し、1,799社から回答を得ました。
資料ではDXの具体的な取り組みを、データのデジタル化や業務効率化から、ビジネスモデルや企業文化の根本的な変革まで幅広く捉えています。
DXの取り組み状況では、2025年度の回答1,799社のうち、8割近くが何らかの形でDXに取り組んでいました。また、DXで設定した目的に対する成果を尋ねた設問では、回答1,361社の60.8%が「成果が出ている」と答えています。いずれも過去2回と比べ、大きな変化はありません。
ただし、具体的な取り組み別に成果を見ると違いがあります。「アナログ・物理データのデジタル化」や「業務の効率化による生産性の向上」は、成果が出ているとの回答割合が相対的に高い一方、「顧客起点の価値創出によるビジネスモデルの根本的な変革」や「企業文化や組織マネジメントの根本的な変革」などは、デジタル化や業務効率化より低い水準でした。
つまり、DXは多くの企業で取り組まれていますが、成果の出方は一様ではありません。AIについても、導入されているかだけでなく、何に使われ、どのような効果につながっているのかを見る必要があります。
AIは従業員規模が大きいほど導入が進み、「一定の効果」が最多
AIの導入状況には、従業員規模による違いが見られました。図表4では、従業員1,001人以上の企業(n=378)の78.3%が「導入している」と回答した一方、100人以下の企業(n=583)では16.6%でした。企業規模が大きくなるほど、AIの導入割合が高い傾向が確認できます。
では、AIを導入した後に効果は得られているのでしょうか。
AI導入による効果を尋ねた設問(n=1,037)では、「期待以上の効果があった」が13.7%、「期待どおりの効果であった」が18.1%で、合計31.8%でした。最も多かったのは「一定の効果はあった」の50.6%です。IPAは、多くの企業でAI導入による効果が得られている一方、期待どおり、または期待以上の効果の割合は限定的だとしています。
ここで、AIが「役に立っていない」と捉えるのは適切ではありません。何らかの効果を確認している回答は多くあります。ただし、一定の効果が得られることと、当初期待した水準まで成果が届くことは別です。
そこで次に確認したいのが、AIを何に使っているのかです。
AIの利用は文書作成や情報収集などの効率化が中心
AIの利用用途を尋ねた設問(n=1,191)では、文書作成や情報収集に関わる用途が上位に並びました。
最も割合が高かった「文書・音声の要約・翻訳・校正」は82.5%です。「文書・レポートの作成(社内・社外)」が80.5%、「情報検索・収集・分析・レポーティング」が77.0%と続きます。IPAは、文書作成や情報収集など、業務効率化を目的とした用途が中心になっていると説明しています。
一方、「自社製品・サービスの高度化」は10.9%、「生産・物流・サービス提供の計画支援」は6.0%でした。事業の高度化や新たな価値創出につながる用途は、業務効率化に関わる用途と比べて回答割合が低くなっています。
文書作成や情報検索にAIを使うこと自体に問題があるわけではありません。日々の業務を効率化できれば、それもAI活用による成果です。
ただ、調査結果を見る限り、現在の利用用途は文書作成や情報収集などの効率化が中心です。自社製品・サービスの高度化や計画支援など、事業の高度化や価値創出に関わる用途の回答割合は相対的に低い状況にあります。
具体的な効果も効率化が中心、顧客や売上への効果は数%台
次に、AI導入後に具体的に何が変わったのかを確認します。
AI導入による具体的な効果を尋ねた設問(n=853)では、「業務が効率化したり迅速化した」が91.6%と最も高くなりました。「企画提案等の品質や速さが向上した」は48.9%、「残業時間の削減につながった」は29.2%です。
一方、IPAが企業価値創出に関連する効果として挙げている項目では、「顧客満足度が向上した」が4.5%、「対象となる顧客が拡大した」が2.7%、「売上や利益が向上した」が3.9%でした。
利用用途の設問と具体的効果の設問は、回答数も質問内容も異なるため、割合を直接比較することはできません。また、特定の用途が特定の効果を生んだという因果関係も、この資料だけでは分かりません。
それでも、それぞれの設問では共通して、業務効率化・迅速化に関わる用途や効果の回答割合が高くなっています。IPAも、AIの活用は業務効率化・迅速化が中心であり、企業価値創出への展開は限定的な状況にあるとまとめています。
ここで注意したいのは、効率化を「不十分な成果」と扱わないことです。AI導入の目的が作業時間の短縮であれば、業務を速くできた時点で目的を達成している場合があります。
一方、新しい顧客価値を生み出すことや、商品・サービスの高度化、顧客の拡大、売上・利益への寄与までAIに期待しているのであれば、時間短縮だけを見て目的を達成したと判断するのは適切とは限りません。AIに何を求めるかによって、確認すべき成果も変わります。
AI活用の現在地は「導入」「用途」「効果」の3点で見る
自社や自分の職場のAI活用を確認するときは、調査結果を「導入」「用途」「効果」の3段階に分けて考えると整理しやすくなります。
導入 → 用途 → 効果 → 当初の目的との一致
最初に見るのは「導入」です。AIを実際の業務で利用しているかを確認します。ただし、導入済みという事実だけでは、AIを何のために使い、どのような成果を得ているのかまでは分かりません。
次に「用途」を見ます。文書作成や要約、情報検索など既存業務の効率化を目的に使っているのか。それとも、商品・サービスや顧客との接点、生産・サービス提供の計画などにも利用範囲を広げているのかを確認します。
後者のほうが常に優れているわけではありません。判断の基準になるのは、自社がAIに求めている目的と使い方が一致しているかです。
最後に「効果」を確認します。効率化が目的なら、作業時間や業務のスピード、残業時間、仕事の品質などが判断材料になります。一方、顧客価値の向上や事業成長まで目的に含めるのであれば、顧客満足度や顧客の拡大、売上・利益など、目的に対応した指標も見る必要があります。
AI活用を次の段階へ進めることは、必ずしも新しいAIツールを増やすことを意味しません。まず確認すべきなのは、自社がAIに何を期待しているのか、その目的に合った用途で使えているのか、そして目的に対応する成果を確認できているのかです。
効率化を目的にしているなら、効率化という成果を適切に評価すればよいでしょう。反対に、新しい顧客価値や事業成長まで期待するのであれば、それに対応した用途と成果指標まで見る必要があります。
AIを「導入したか」だけで評価せず、「何に使い、何が変わったのか」を確認する。そうすることで、自社のAI活用が現在どこにあり、次に何を検討すべきかを判断しやすくなります。
出典:独立行政法人情報処理推進機構「国内企業のDX動向・AI活用動向のポイントを公開」
