2026年6月30日、リクルートワークス研究所は「【特別調査】人口減少・AI時代の新卒採用と育成」を発表しました。この資料は、人口減少とAIの普及が進むなか、大企業が新卒採用を続けるのか、採用した若手をどのように育てようとしているのかを調べたものです。採用人数だけでなく、AI時代に必要となる若手の成長経路が焦点となっています。
大企業186社の68.8%は新卒採用数を変えない
調査は2026年2月27日から3月19日まで、全国の従業員1,000人以上の民間企業1,000社の人事部門を対象に行われ、186社から回答を得ました。企業の人手不足、新卒採用数へのAIの影響、採用目的、採用後の育成、人材戦略への反映状況などを尋ねています。
まず、正社員の人員状況では、「不足している人材があるが、過剰な人材はない」が57.1%で最も多くなりました。また、「不足している人材があるが、同時に過剰な人材もある」と答えた企業も20.1%ありました。必要な人材が足りない一方、職種や能力によっては余っているという偏りが起きている企業もあります。
こうした状況でも、AIなどの技術が進むことで新卒採用数が「変わらない」と答えた企業は68.8%でした。「増やす」と「減らす」は、いずれも7.5%です。大企業の多くは、AIの普及を理由に新卒採用を大きく減らす方針を取っていません。
その背景には、新卒採用を現在の作業要員の確保だけでなく、将来の組織を支える人材の入口として捉えていることがあります。3~5年前より重視するようになった採用目的として、「事業の維持・継続に必要な人員数の確保」が34.1%、「将来の基幹人材の確保」が25.0%、「組織の年齢バランスの適正化」が23.7%でした。
つまり、AIが一部の業務を担うようになっても、企業は将来の中核人材や世代交代を支える人材まで不要になるとは考えていません。新卒採用の必要性は残る一方で、採用後に何を経験させ、どのような能力を伸ばすかが次の課題になります。
採用は続くが、AI時代の育成設計は検討段階
新卒採用後の育成については、「研修プログラムの内容を見直す」が34.6%で最も多く、「育成期間が短期化する」が14.7%でした。一方で、「育成への影響はない」は22.8%、「わからない」は32.4%です。AIによる変化を見込みながら育成を見直す企業がある一方、影響を判断できていない企業も少なくありません。
さらに、AIが今後の人材・採用戦略へ与える影響について、「議論はしていない」が42.5%、「議論が始まっている」が35.5%でした。議論を踏まえて、実際の人材・採用戦略へ反映している企業は6.5%です。
ここから分かるのは、新卒採用を続ける方針と、AI時代の若手育成を具体化する作業の間に差があることです。採用人数は維持しても、入社後の仕事や研修を以前と同じままにすれば、若手が成長する過程と実際の業務が合わなくなる可能性があります。
たとえば、情報収集、資料の下書き、文章の要約、定型的な集計は、若手が仕事の基本を学ぶために担当してきた業務でもあります。これらをAIへ任せること自体が問題なのではありません。しかし、作業と一緒に確認方法や判断理由まで省いてしまうと、若手が顧客の要望、数字の意味、社内の判断基準を学ぶ機会も減ります。
したがって、企業が考えるべきなのは「AIで新卒を減らすか」だけではありません。採用した若手がAIを使いながら、業務知識、判断力、周囲と協働する力を身につけられるよう、育成の順序を組み直せるかが重要です。
若手育成で見直すべき3つの設計
最初に見直したいのは、若手に身につけてもらう能力です。業務知識を覚えることに加え、AIへ適切に指示する力、出力の誤りを見つける力、数字や情報源を確かめる力、判断理由を相手へ説明する力を育成項目として明確にします。情報セキュリティや個人情報の扱いも、AI利用と切り離せません。
次に、配属後の仕事を設計します。AIが下書きを作る場合でも、若手が元資料を読み、出力を確認し、修正理由を説明する工程は残します。また、顧客との打ち合わせや現場での観察、上司の判断過程を知る機会を計画的に置けば、単純作業が減っても仕事の背景を学べます。
加えて、全員へ同じ研修を行うだけでなく、入社時や配属後に理解度を確認し、必要な学習内容を変える仕組みも有効です。文章を読み解く力、数字を扱う力、論理的に考える力、AIを使う力、ビジネスマナー、情報セキュリティの基礎を確認すれば、本人の弱点に合った研修や実務経験を用意しやすくなります。
採用や育成を担当する部署では、採用人数、初期配属、研修、現場で経験させる仕事、評価項目を別々に決めず、一つの計画としてつなげる必要があります。現場の上司も、AIの出力を直すだけでなく、どこを確認し、なぜその判断をしたのかを若手へ言葉で伝えることが求められます。
若手本人にとっても、AIを使えることだけでは十分ではありません。AIが出した内容を確認し、自分の判断として説明し、周囲と協力して仕事を進める力が、これまで以上に重要になります。
今回の調査は、AIの普及後も大企業の多くが新卒採用を維持する一方、若手の育成方法はまだ検討段階にあることを示しています。企業に問われているのは、採用数を減らすかどうかではなく、採用した若手がAI時代に必要な能力を身につける道筋を作れるかどうかです。
