2026年8月5日、ガートナージャパン株式会社(Gartner)は「Gartner、日本における未来のデジタル・ワークプレースのハイプ・サイクルを発表:AIエージェントをはじめとするテクノロジ・トレンドを紹介」を発表しました。
Gartnerのハイプ・サイクルは、テクノロジやアプリケーションの成熟度や普及率、それらがビジネス上の課題解決や新しい機会の活用にどう関係するかを図示し、導入判断に役立てるためのものです。今回の発表では、AIエージェントだけでなく、ビジネス部門によるテクノロジ活用や、多様な人材を支える仕組みなど、これからのデジタル・ワークプレースを形づくる変化が取り上げられています。
デジタル・ワークプレースとは、従業員が仕事やコミュニケーション、協働に使うデジタル環境を指します。AIが職場へ広がるなかでは、新しいツールを導入するだけでなく、それを誰が、どのような業務で、どのように使うのかまで考える必要がありそうです。
AIエージェントだけではない、Gartnerが示した「デジタル・ワークプレース」の変化
Gartnerは日本の状況について、少子高齢化による労働力不足に加え、人材の流動化が進み、人材獲得競争が年々激しくなっていると説明しています。企業にとっては、限られた人材で仕事を進めるだけでなく、必要な人材を獲得し、働き続けてもらうことも重要な課題になっています。
こうした環境で期待されているのがAIです。Gartnerのディレクター アナリストである林宏典氏は、急速に進化するAIについて、生産性向上や人材不足の緩和だけでなく、イノベーションの促進にも貢献できるとの見方を示しています。
そのために必要とされているのが、デジタル・ワークプレースそのものの変化です。林氏は、「AIと人」だけでなく「AIとAI」も含めた多様なデジタル上の協働を支え、企業の成長や変革につながるプラットフォームへ進化する必要があると述べています。
今回の発表は、単独のAI製品や特定の機能を紹介するものではありません。AIが広がることで、技術の使われ方、利用する人、企業と従業員の関係まで変わり始めていることを捉えたものです。
職場で同時に進む3つの変化――AIの拡大、現場主導、多様な人材
AIエージェントはオフィスから工場や店舗へ広がりつつある
Gartnerが挙げる最初のトレンドは、「AIエージェントの急速な進化と浸透」です。
Gartnerによると、主要ベンダーはより自律性の高いテクノロジを開発するとともに、その適用範囲をオフィスワークから工場や店舗などのフロントラインへ広げつつあります。
利用範囲が広がれば、AIを活用できる場面も増えます。一方でGartnerは、こうした拡大にはさらなるリスクが伴うため、ガバナンス整備の必要性も高まっていると指摘しています。
つまり、AIを使える業務が増えることと、企業が管理すべき範囲が広がることは同時に進みます。AIの機能だけを見るのではなく、どの仕事で利用するのか、その利用をどのように管理するのかも考える必要があります。
AIを選び使う主体が、IT部門だけではなくビジネス部門へ広がる
2つ目のトレンドは、テクノロジを活用する主体の変化です。
Gartnerは、ソフトウェアのSaaS化やノーコード・ツールの進化、IT部門の人員逼迫などを背景に、ビジネス部門がAIをはじめとするテクノロジを主体的に選定し、活用する動きが本格化していると説明しています。
こうした変化によって技術利用の入口が現場へ広がる一方、新しい問題も生まれています。
その一つが「シャドーAI」です。会社が十分に把握・管理していない状態でAIが使われることを指し、Gartnerはこうしたリスクの増大がガバナンス上の新たな課題につながるとしています。
これは、IT部門が不要になるという話ではありません。利用する主体が広がるからこそ、現場での使いやすさと、会社として把握・管理できる状態をどう両立するかが問われることになります。
デジタル環境が支える相手も、既存社員だけではなくなっている
3つ目は、人材の変化です。
Gartnerは日本の大手企業について、中途採用比率の増加に代表されるように、従来の「新卒中心の長期雇用」から、その時々の経営課題を解決する意思やスキルを持つ社内外の人材を機動的に求める方向へシフトしつつあると説明しています。
働く人の構成が変われば、デジタル・ワークプレースが支える対象も変わります。既存従業員の日常業務を効率化するだけでなく、中途入社した人が仕事を始めやすくするオンボーディングや、退職後も企業とつながる社外のアルムナイとの協業なども支援する必要があるというのがGartnerの見方です。
さらにGartnerは、企業と個人がより対等で柔軟な関係を結ぶ未来の組織に向けた要素として、組織開発、社内人材マーケットプレース、AI支援型スキル管理を挙げています。
また、個別のツールだけを見るのではなく、それらを利用する人の立場からデジタル・ワークプレース全体の価値を高める「デジタル従業員エクスペリエンス」という視点も重要だとしています。
職場のデジタル環境は、今いる社員が効率よく働くためだけのものではなく、異なる経歴や立場を持つ人が仕事へ参加しやすくする基盤としても考える必要が出てきています。
AI時代の職場を考えるなら「技術・運用・人材」を分けて確認する
ここまでのGartnerの指摘を、実際の職場でAIやデジタル環境を見直すための判断に置き換えると、「技術」「運用」「人材」という3つの視点に整理できます。これはGartnerが示した正式な分類ではなく、同社が挙げたトレンドを基にFocus4編集部が整理したものです。
技術――何をAIに任せ、何を支援してもらうのか
最初に確認したいのは、AIを導入すること自体ではなく、どの業務を対象にするのかです。
Gartnerは、人口減少下で競争力を維持・向上するための重要なテクノロジとして、人間の業務を代替する可能性を持つエージェント型AIや、従業員向けAIのポートフォリオである「AIワークスペース」を挙げています。
ただし、「AIを導入する」というだけでは対象が広すぎます。どの仕事をAIに任せる可能性があるのか、どの仕事では人を支援するのか、あるいはAIと人、AI同士をどのように協働させるのかを分けて考える必要があります。
AIの性能だけでなく、解決したい業務上の課題と役割が決まっているかが、最初の確認点になります。
運用――使う人が増えたとき、どこまで自由に使えるようにするのか
次に確認したいのが運用です。
ビジネス部門が主体的にAIやテクノロジを選べるようになれば、現場は自分たちの課題に合ったツールを使いやすくなります。一方で、シャドーAIのように会社側が利用状況を把握できない問題も起こり得ます。
そこで重要になるのは、「禁止するか、全面的に自由にするか」という二択ではありません。
誰が、どのような用途で、どのツールを使っているのかを会社側が把握できる状態になっているか。利用主体が広がるほど、この確認が重要になります。
新しいAIを使えるようにすることと、その利用を管理できることを別々の問題にせず、一緒に設計する必要があります。
人材――そのデジタル環境は誰が働くことを前提にしているのか
3つ目は、職場のデジタル環境が誰を前提に作られているかです。
従来から働いている社員には分かりやすい仕組みでも、中途入社した人や社外から参加する人にとって同じように使いやすいとは限りません。
Gartnerが中途入社スタッフのオンボーディングや社外アルムナイとの協業を挙げていることを踏まえると、デジタル・ワークプレースを評価するときには、「今いる社員が使いやすいか」だけでなく、「新しく加わる人が仕事を始めやすいか」という視点も必要です。
技術の対象を広げるだけでなく、その環境へ参加できる人の範囲も考えることが、これからの職場設計の一部になります。
新しいAIを入れることではなく、働く仕組み全体をどう変えるか
Gartnerの発表から見えてくるのは、デジタル・ワークプレースの変化が単なるAIツールの追加にとどまらないということです。
AIエージェントの適用範囲が広がり、AIワークスペースのような技術も重要と位置付けられる一方で、それを選び使う主体はビジネス部門へ広がっています。同時に、職場が支える人材も、従来から働く社員だけではなく、中途入社者や社外人材などへ広がりつつあります。
そこでAI導入や職場のデジタル環境を見直す際には、「技術・運用・人材」のどこに不足があるかを分けて確認することが一つの判断材料になります。
どの業務をAIに任せるのか。利用者が増えたときに管理できるのか。新しく参加する人も働きやすい環境になっているのか。この3点は、個々の新技術の機能だけを見ていては捉えにくい問題です。
林氏は、AIなどの最新技術でデジタル・ワークプレースを強化し、生産性とイノベーションを高めることが、人口減少下での企業成長に不可欠との見解を示しています。また、その成果を従業員へ還元することで、優秀な人材の確保・定着も実現できるとの見解を示しています。
これは今回の発表で因果関係を実証した調査結果ではなく、Gartnerアナリストによる見解です。ただ、AIが仕事へ入り込む範囲が広がるほど、「何のために導入するのか」だけでなく、「誰が使い、どう管理し、誰が参加できる職場にするのか」まで考える重要性は高まります。
AI時代のデジタル・ワークプレースを考えるとき、新しい技術を導入したかどうかだけではなく、働く仕組み全体をどう設計するかという視点が欠かせなくなりそうです。
出典: Gartner、日本における未来のデジタル・ワークプレースのハイプ・サイクルを発表:AIエージェントをはじめとするテクノロジ・トレンドを紹介
