2026年8月19日、Forrester Research, Inc.は「Forrester Introduces AI Disruption Model To Assess AI’s Impact On Technology And Service Markets」を公表し、技術・サービス市場へのAIの影響を分析する「Forrester AI Disruption Model」を発表しました。
AIの進歩は、あらゆる市場へ同じ影響を与えるわけではありません。AIの普及によって需要が高まる製品やサービスがある一方、人が担ってきた作業をAIが代替することで圧力を受ける市場や、既存の仕組みを残しながら形を変えていく市場もあるとForresterはみています。
市場を「AIだから伸びる」「AIだからなくなる」と一括りにせず、どのような条件がAIの影響の違いにつながるのかを見ることが重要になります。
Forresterが17カテゴリ・200超の市場をAIの影響別に分析
Forrester AI Disruption Modelは、17の技術・サービスカテゴリに含まれる200を超える市場を対象に、AIによってどのような影響を受ける可能性があるかを分析するモデルです。Forresterは個別市場について、AIによる「加速」「破壊」「再編」「限定的な影響」といった方向から分析しています。
評価要因として発表文で挙げられているのは、AIによる代替可能性、労働集約度、AIエージェントなどのエージェント型ワークロードへの対応、商業モデル、データや信頼に関する優位性、AI向けの研究開発投資、規制による制約、資産集約度、切り替えコストなどです。
ただし、今回公表されたリリースだけでは、各要因にどの程度の重みを付けているのか、どの点数ならどの分類になるのかといった詳しい判定方法までは分かりません。
また、発表では関連する2本のレポート「The Forrester AI Disruption Model: How AI Disrupts Or Accelerates Technology And Service Markets」と「The Forrester AI Disruption Model: Category Analysis」も案内されています。
つまり、このモデルはAIの影響を単純に「プラスかマイナスか」で評価するものではなく、市場ごとの性質によって影響の方向が変わることを捉える枠組みといえます。
AIを支える3カテゴリは成長が見込まれる側、人の専門作業に依存するサービスは代替圧力を受ける
Forresterが明確な成長を見込む側として示したのが、AIを利用するために必要となる技術やサービスです。発表では、企業がAIの実験段階から、AIアプリケーションや自律型エージェントを企業規模で展開する段階へ移ることで、次の3カテゴリが恩恵を受けるとしています。
- インフラ
- データ・AI
- アイデンティティ・アクセス・ネットワークセキュリティ
インフラにはクラウドプラットフォーム、データセンター、ストレージなどが含まれます。データ・AIにはAIモデル、AIプラットフォーム、データ管理、ガバナンスソリューションなどがあります。セキュリティ分野では、Zero TrustやAIエージェントセキュリティなどが例として挙げられています。
Forresterの分析では、企業によるAI展開が広がることで、こうしたAIを実現・保護・統制する技術やサービスに大きな成長余地があるとされています。Forresterは、この3カテゴリを企業のAI展開拡大から明確な恩恵を受ける側として位置付けています。
一方で、強い代替圧力を受けるとみられているのが、労働集約型の知識労働に関わるサービスです。具体例として挙げられているのは、トランスフォーメーションサービス、技術実装、ソフトウェア開発、クリエイティブサービス、ローカライゼーション、トレーニングなどです。
背景には、コーディング、コンテンツ制作、翻訳といった、これまで人の専門性に依存していた活動をAIが担えるようになることがあります。
ただし、これは特定の職業そのものがなくなると示したものではありません。Forresterが説明しているのは、人が行ってきた活動の一部をAIが代替することで、それらに依存する技術・サービス市場へ圧力がかかる可能性です。
同じ「AIの進歩」でも、AIの利用拡大を支える市場と、AIが既存作業を代替できる市場では、影響の方向が大きく異なることが分かります。
多くの企業向けソフトウェアは置き換えより再編が見込まれる
AIの影響は、「成長する市場」と「破壊される市場」の二者択一でもありません。Forresterは、多くの企業向けソフトウェアカテゴリについて、AIに完全に置き換えられるのではなく、AIによって再編されるとみています。
例として挙げられているのは、ビジネスアプリケーション、ガバナンス・コンプライアンス、プロセス自動化、顧客体験、マーケティングテクノロジーなどです。
これらの市場もAIによる破壊の影響を受ける可能性があります。しかし、既存の業務フローへの組み込み、規制要件、別のシステムへ移行する際の切り替えコストといった条件があります。
さらに、AI活用が進むほど、データ、複数の仕組みを連携させるオーケストレーション、ガバナンス、信頼を確保する機能への需要が高まるとForresterは分析しています。
そのため、AIが既存ソフトウェアの一部機能を代替できるとしても、それだけで市場そのものが不要になるとは限りません。既存の仕事の流れに深く入り込んでいるのか、規制上必要なのか、利用者が簡単に別製品へ移れるのかといった周辺条件によって、既存市場の価値が残りながらサービスの形が変化する可能性があります。
自社の市場を見るときは「代替されやすさ」「AIを支える度合い」「置き換えにくさ」を確認する
Forresterは、技術リーダーがAI Disruption Modelを利用することで、自社のポートフォリオに対するAIの影響を予測し、機会やリスクに備えられるとしています。技術やサービスを提供する企業についても、AIが自社市場の経済構造をどのように変えるかを評価し、投資の優先順位を考えるための枠組みとして位置付けています。
では、AI導入や事業企画、商品・サービス開発に関わる人が、自社の商品や利用しているサービスについて考える場合、どこを確認すればよいのでしょうか。
Focus4編集部では、Forresterが示した評価要因と市場分析を、次の3つの問いに整理しました。これはForresterが公式に提示した3分類ではなく、今回の発表内容を自社の判断へ当てはめやすくするための整理です。
1. AIに置き換えられやすい側か
まず確認したいのは、その商品やサービスの価値が、人が行う作業にどの程度依存しているかです。Forresterの評価要因には、AIによる代替可能性と労働集約度が含まれています。
人による作業の比重が高く、その作業をAIでも実行しやすい場合には、既存の提供方法が代替圧力を受ける可能性があります。
自社の商品や取引先について考えるなら、「顧客がお金を払っている価値のうち、AIが同じ役割を担える部分はどこか」という視点が一つの確認材料になります。
2. AIの普及を支える側か
反対に、AIの利用が増えることで必要性が高まる商品やサービスもあります。今回の発表で成長が見込まれる側として示されたインフラ、データ・AI、セキュリティ関連のカテゴリは、その代表例です。
AIアプリケーションやエージェントの利用が増えたとき、自社の商品やサービスの需要も連動して増えるのかを確認することができます。
Forresterが挙げた要因に照らせば、AIエージェント型の処理への対応、AI向け研究開発、データや信頼に関する優位性なども判断材料になります。
AIを直接搭載しているかだけではなく、「AIを広く使うために必要になるものを提供しているか」という見方が重要です。
3. AIだけでは置き換えにくい条件があるか
AIが一部の機能を代替できても、市場全体が置き換わるとは限りません。企業向けソフトウェアについてForresterが示したように、既存の業務フローへの組み込み、規制、切り替えコスト、データや信頼の蓄積などが市場の価値を支える場合があります。
自社の市場を見る際には、AIの性能だけでは解消できない条件がどの程度あるかを確認する必要があります。
例えば、検討時の問いとしては次のように整理できます。
- 人が担っている作業のうち、AIに置き換えやすい部分はどこか
- AIの利用拡大に伴って、自社の商品やサービスへの需要も増えるか
- 規制、既存業務フロー、切り替えコスト、データ、信頼、物理的な資産など、AIだけでは代替しにくい条件があるか
この3つに答えれば市場の将来を正確に予測できるわけではありません。今回のリリースでは、モデルの詳しい採点方法や200を超える個別市場の全評価結果も公開されていません。
それでも、「AIだから伸びる」「AIだからなくなる」と判断するのではなく、代替されやすさ、AI利用を支える役割、既存市場を支える条件を分けて確認することで、自社の投資、調達、商品・サービス戦略を考える際の材料になります。
Forresterの発表が示しているのは、AIの影響が技術・サービス市場へ均等に及ぶわけではないということです。AI時代の市場変化を見るときに重要なのは、AIそのものの性能だけではありません。
その市場が何によって価値を生み、どの部分をAIが代替でき、逆にAIの普及によって何が新たに必要になるのかまで見ることで、成長、再編、破壊、限定的な影響という違いを捉えやすくなります。
出典:Forrester Introduces AI Disruption Model To Assess AI’s Impact On Technology And Service Markets
