2026年7月9日、株式会社帝国データバンクは「上場企業の『平均年間給与』動向調査(2025年度決算)」を発表しました。上場企業が有価証券報告書で開示した平均年間給与を基に、給与水準の動きや企業間、業種間、市場区分ごとの違いをまとめた調査です。
平均年収のニュースを見ると、自分の年収より高いか低いかをすぐ比べたくなるかもしれません。ただし、今回の「平均年間給与」が表しているのは、対象となった上場企業の給与データです。自分自身の給与水準を考えるには、まず数字の対象を確認し、そのうえで企業間の分布や業種、市場区分の違いまで見る必要があります。
まず確認したい「平均年収692.6万円」は誰を調べた数字なのか
調査対象は、2025年度決算期、つまり2025年4月から2026年3月期を迎えた上場企業のうち、有価証券報告書に「平均年間給与・従業員平均年齢・勤続年数」の記載がある企業です。2026年6月30日までに提出された有価証券報告書を基にしており、対象規模は約3700社となります。
持ち株会社など特定の業態に絞った調査ではなく、社員数による限定もありません。業種分類は金融庁の定めに準じています。
ここで重要なのは、この調査が「日本で働く人全体」の年収を調べたものではないことです。各社が開示した平均年間給与を基に、対象となる上場企業の給与水準を集計しています。したがって、今回の数字を「日本の会社員の平均年収」と読み替えることはできません。
平均692.6万円、76.8%の企業で増加 上場企業では平均給与の上昇が広がった
2025年度の平均年間給与は692.6万円でした。前年度の671.1万円から21.5万円、率にして3.2%増えています。5年連続で前年度を上回り、データのある2003年度決算以降で最高となりました。
一方、中央値は661.6万円です。ただし、ここでの中央値も企業が開示した平均年間給与に基づく指標であり、上場企業で働く個人の年収中央値ではありません。
前年度と比較すると、平均年間給与が増えた上場企業の割合は76.8%に達しました。増加率では「2.5%以上5%未満」が25.2%で最も多く、「5%以上10%未満」も約2割、「10%以上」も約1割を占めています。
この結果から、2025年度は一部の企業だけではなく、対象となる上場企業の広い範囲で平均年間給与の上昇が確認されたと読めます。ただし、76.8%という数字は「従業員の76.8%が昇給した」という意味ではありません。あくまで、前年度より企業の平均年間給与が増えた企業の割合です。
そのため、692.6万円という数字は、まず「対象となる上場企業全体の給与水準がどちらへ動いているか」を見る指標として捉えるのが適切です。
「平均692.6万円」だけを見ると見落とす 最多は600万円台、500万円台以下も34.8%
全体平均だけでは、対象企業がどの水準に分布しているかまでは分かりません。実際、2025年度の企業別平均給与を見ると、最も多いのは600万円台で、939社・25.6%でした。次いで500万円台が850社・23.1%、700万円台が677社・18.4%となっています。
| 平均給与レンジ | 割合 |
|---|---|
| 1000万円以上 | 6.4% |
| 900万円台 | 5.0% |
| 800万円台 | 9.7% |
| 700万円台 | 18.4% |
| 600万円台 | 25.6% |
| 500万円台 | 23.1% |
| 500万円未満 | 11.7% |
1000万円以上の企業は235社・6.4%で過去最多でした。一方、500万円未満も430社・11.7%あり、500万円台と500万円未満を合わせると34.8%を占めます。
この分布から分かるのは、平均が692.6万円だからといって、各社の平均給与が692万円前後に集まっているわけではないということです。平均値だけを見て「上場企業ならだいたいこのくらい」と考えると、企業ごとの差を見落としやすくなります。
勤務先や転職候補企業の給与水準を見る場合も、全体平均だけではなく、「どのような給与水準の企業がどの程度あるのか」を確認することが重要です。
同じ上場企業でも給与水準は違う 業種と市場を変えると比較する数字も変わる
企業間の差をさらに見ると、業種によって給与水準が異なります。製造業の平均年間給与は702.6万円、非製造業は686.8万円でした。
より細かく見ると、最も平均年間給与が高かった海運業は1120.1万円です。証券・商品先物取引業は962.1万円、保険業は936.0万円、鉱業は911.7万円となっています。
こうした業種差がある以上、自社の給与が上場企業全体の692.6万円を上回っているか、下回っているかだけでは、その会社が同業他社と比べてどのような位置にあるのかは判断しにくくなります。
市場区分でも差があります。東証プライム上場企業の平均は793.2万円、東証グロースは648.0万円、東証スタンダードは615.6万円でした。東証プライムと東証スタンダードの単純差は177.6万円で、約178万円になります。
もちろん、市場区分が同じなら給与条件も同じという意味ではありません。それでも、自社や転職候補企業の給与水準を見る場合、上場企業全体という大きな集団だけで比べるより、少なくとも業種や市場区分が近い企業群まで絞った方が、比較対象を実態に近づけられます。
自分の年収と比べるなら、「692.6万円より上か下か」だけで判断しない
今回の調査を自分の給与について考える材料として使うなら、数字を見る順序を分けると理解しやすくなります。
まず見るのは全体の方向です。平均692.6万円、前年比3.2%増という結果から、対象となる上場企業全体で平均給与がどちらへ動いているのかを確認します。
次に企業間の分布を見ます。600万円台が最も多く、500万円台以下も34.8%あります。全体平均だけから「典型的な上場企業の給与」を決めつけず、企業ごとに幅があることを押さえる必要があります。
そのうえで、自社や転職候補企業を見るなら、業種や市場区分など条件の近い企業へ比較対象を絞ります。比較する集団を近づけるほど、上場企業全体の平均だけを見るより、その企業の位置を考えやすくなります。
ただし、ここにも限界があります。今回の一次資料には、個人の年齢、職種、役職、勤続年数ごとの給与分布は示されていません。そのため、「自分が692.6万円未満だから低い」「692.6万円を超えているから高い」と結論づけることはできません。
692.6万円は、個人の年収に対する合格ラインではありません。上場企業の給与動向を見るための出発点です。
自分の給与を考えるときは、まず全体の流れを確認し、次に企業間の分布を見て、最後に比較対象をできるだけ近い条件へ絞ります。それでも、この調査だけでは個人の適正な給与水準までは分からない、という限界を押さえておく必要があります。
出典:上場企業の「平均年間給与」動向調査(2025年度決算)(株式会社帝国データバンク)
